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事業承継の思わぬ落とし穴「名義株」
事業承継には様々なポイントがあります。後継者育成や相続税対策などの大きなテーマに囲まれて目立たない、でもほっとくと物事が進まなくなるかも知れない重大なテーマもある。それが「名義株」です。
株式会社には必ず「株主」がいる。会社の設立準備中の段階では株主でなく「発起人」と呼びます。まだ会社設立前なので株主と呼びことはできず、「発起人」と呼ばれる出資者たちは会社設立と同時に「株主」となります。
この株主のさなぎのような存在である「発起人」。現在の会社法では人数に関する規定はなく、発起人が1人でも株式会社を作れます。実際今できる会社は自分で出資して自分1人ではじめる1人会社が多いでしょう。
ところが昔は違いました。平成2年の商法改正以前は発起人がなんと7人も必要だったのです。7人も人を集められることが、ある意味で信用だったのでしょう。ルールはルールなので仕方なく、これから会社を設立したい人は頑張って7人かき集めました。
文字通り「かき集める」状態の株主の中には「迷惑かけないから名前だけ貸して」ということで、会社を作りたい人の友達だったり親戚だったりで実際には会社の事業に興味がない人もたくさん含まれます。
このようにして名義だけの株主、つまり「名義株」が量産されてしまったのです。それから数十年も時間が流れ、名義を貸してくれた人とも疎遠になったり連絡先が分からなくなったりあるいは亡くなって相続が発生したりしてしまう。こうして名義株の持主との連絡をとることや、あるいは誰が名義株を持っているのかさえ特定が難しくなってきます。
どんな問題が起こるのか?
では実際に名義株が発生したり、株式が分散したりするとどんな問題が起こるのでしょうか。見ていきたいと思います。
① 経営の不安定化
株は会社の所有権を細かく刻んだものです。株主は会社のオーナーの1人ということになりますから、一定程度その要望にこたえなければなりません。
その要望を受ける主な舞台は「株主総会」です。株主は株に含まれる権利の1つである「議決権」を行使することができます。この議決権の51%を掌握すると取締役などの役員人事を単独で決められるようになります。
そう聞くと51%保持していれば少数株主はあまり気にしなくて良いように思うかも知れません。人事権という一番大事な部分は掌握しているからです。しかし単純にそうとも言えません。会社法には株が1個しかもってない人も使える単独株主権や少数の株主でも使える少数株主権もたくさん用意されています。
例えば単独株主でも株主総会に議案を提出したり定款や計算書類など会社の重要書類を見せるように要求したりすることができます。会社としては、対応するだけで手間もかかりますしある種の嫌がらせで使おうと思われたらたまったものではありません。このように、少数の株主でも会社とあまりかかわりのない人が株主になっているのは、やはりリスクなのです。
② 事業承継における問題の表面化
創業社長の威光や名義株主のつながりにおいて表面化しなかった問題が、後継者への事業承継によって表面化することも考えられます。
今までは特に権利主張してこなかった少数株主の権利主張がはじまったり、後継者が100%株主になれないことなどはやはりリスクです。昭和42年の判例において裁判所は会社の株主は名義を貸した者ではなく、実質上の引受人つまり名義借用者であるとしました。みなさまの会社におかれましても、事業今まで名義を貸与してきただけの方が果たして正当な権利主張者かというとそうとは限りません。
しかしそうした火種が残ってしまうことそのものが、事業承継を受ける後継者にとってやはり会社運営がやりにくくなる原因の1つになります。
③ M&A時における問題の表面化
問題が表面化するのは、創業社長の親族に対する事業承継の場面だけではありません。M&Aにより、全くの第三者に事業を売却する時も一緒です。
買い手も当然、100%株主になることを望みます。昭和42年の判例に基づいて創業者などが株主であると理解して株式譲渡することも考えられるかも知れませんが、M&Aの契約には「表明保証」が必ずと言っていいほど必要になります。
表明保証は売り手が契約の前提となる事実に間違いなないことを買い手に保証するもので、もしも後からほかにも株主がいたことになると表明保証条項違反となってしまうリスクが残ります。
主な対応方法
上記のように、名義株や少数株主には意外なリスクが隠れています。ではこういった問題にどのように対応していくのでしょうか。主な対応方法を上げていきます。
① 少数株主との合意。買い取り。
一番シンプルなのは少数株主と名義株であるがゆえに真の株主ではないことに合意したり、買い取ってしまう方法です。最初に検討すべき方法でしょう。
しかし少数株主と連絡が取れなかったり、少数株主が誰なのか確定が難しい状況では使えません。連絡を取ることや株主確定の困難さも考えながら、この方法を使うか検討していくことになります。
② 会社法上の株式に関する技術の活用
会社運営に関する法律である「会社法」には、株式について実に色々なことができるように定められています。これらを活用して株式を取得できる可能性があります。
例えば株式併合といういくつかの株をまとめてしまう制度を使って実質少数株主の保有株を「端株」と呼ばれる1に満たない単位まで落とすことができるかも知れません。また全部取得条項株式という株主総会の決議によって全ての株を買い取ることができる株式に変えることが検討できるかも知れません。これらの制度のデメリットは「商業登記に記録が残る」ことです。
発行している株の数や全部取得条項株式を発行していることは商業登記に記録が残す必要がありますので、誰でも登記情報を取得して確認ができてしまいます。なにか会社で動きがあったことが明らかになりますので、それによってどこかに問題が生じないか検討する必要があります。
③ 相続人への売り渡し請求や所在不明株主が持つ株主の競売
会社法には、定款に定めがあれば株主が亡くなった時に相続人へ売り渡し請求できたり、所在が分からない株主の株を競売できる制度があります。
ですがそれぞれ、亡くなったことを知ってから1年以内に請求する必要があったり株主に対する通知をきちんと送っていてそれが5年以上届かなかったりする必要があるなど条件が厳しいです。これらの条件をクリアしていれば、制度利用を検討できます。
会社法知識の活用
ここまで紹介してきたように、少数株主対応の知識は会社法の知識がメインです。弊社代表は司法書士でもあり、司法書士は商業登記を通じて会社法にも精通しています。ぜひ現役司法書士が代表をつとめる弊社にご相談ください!