単身者の増加と高齢化社会は新たな社会問題をもたらしました。それは1人暮らしの高齢者の増加です。
昭和55年時点での65歳以上の1人暮らしの方の65歳以上人口に対する割合は男性で4.3%。女性で11.2%でした。それが令和2年には15.0%、女性は22.1%。男性は3倍強、女性は2倍弱まで膨れ上がっています。
日本全体でみても、65歳以上の方の人口に対する割合は28.4%(令和元年時点)です。1人暮らしの高齢者が増えるのも当然と言えます。
1人暮らしの高齢者が増えて起こる問題の1つが財産管理。高齢の方をおそう体調の問題。体力の問題からご自身で生活費を引き出したり、銀行で手続きをとったりすることが難しくなることがあります。介護の方が家にきてくれれば食事を買ってきたりしてくれるかも知れませんが、肝心のお金がおろせません。
しかし、こういう問題をサポートする制度があります。例それは任意後見契約や財産管理契約。このページではこれらの制度の違いや特徴、利用する時の注意点について解説します。終活中の近親者がいらっしゃる方、一人暮らしで将来を不安に思っていらっしゃる方の参考になればと思います。
任意後見契約とは?
任意後見契約は財産管理や療養看護に関する事務を信頼できる人にお願いし、代わりにやってもらう制度です。最大の特徴でもあり、利用する時の注意点でもあるのが「本人の判断能力が低下するまで効力が発生しないこと」です。
判断能力が低下しているとは、要するに認知症になってしまったということ。この契約は自分が元気なうちに自分の財産管理や支払い事務を任せる人を選び、いざ認知症になってしまった後にその人が仕事をはじめる契約です。
この効果が発生する時期の違いが、後で説明する財産管理委任契約との大きな違いとなります。終活を考えはじめてはいるがまだまだ元気な方は、まずは老後の生活プランから考えはじめるかも知れません。そういう時に検討したい制度です。
最大のメリットとしては、「財産管理を任せる人を自分で選べる」ことにあります。自分の財産を管理する人を自分で選べるなんて、当たり前のことに思っても当然でしょう。ところがこれが、自分が認知症になった後ではどうでしょうか。もう自分が財産管理をできるのかどうかも判断できないし、任せる人をこの段階で選べてしまってはかえって危険です。
よって認知症になってしまった後は「法定後見」という任意後見と似ていますが別の制度の利用を検討することになります。この制度は、裁判所が財産管理をする後見人を選ぶ制度。候補者の希望を裁判所に伝えることはできますが、決めるのは裁判所です。
ご本人からすれば初めて会う司法書士や弁護士さんが財産管理することになる可能性も十分にあり、それよりは自分が元気なうちに自分で決める任意後見の方が安心できるかも知れません。
制度利用の際に注意点として強調したいのは、とにかく判断能力が下がったらもはや利用できないこと。任意後見は、公証人が作成する契約書・・つまり公正証書で契約締結しなければならないことが任意後見契約に関する法律の第3条で定められております。
公証人が関与しなければ任意後見契約は締結できないため、判断能力の有無の判断もしっかりなされる構成になっています。任意後見は、実はまだまだ利用が進んでいない制度。任意後見契約の効果を発生させる「監督人選任の申し立て」は令和4年の1年間でわずか879件でした。
日本全国で1年で1000件にも満たないのですからとても少ないと思います。しかし単身者をはじめ、状況によっては制度利用がピッタリくる方もたくさんいらっしゃいます。検討する価値はあると思います。
財産管理契約とは?
財産管理契約は、任意後見契約とセットで利用します。任意後見契約は、本人の判断能力が衰えないと効果が発生しません。ここで問題なのは、判断能力は・・つまり頭がしっかりしていても体が弱ってきている時の対応です。
高齢になって自分の事務処理や財産管理ができない人を第三者が代わりにやる制度。それが任意後見契約です。しかし任意後見契約は判断能力が衰えないと・・つまり認知症にならないと効果が発生しない。では認知症ではないが、足腰が弱かったり体力が無かったりして外出がうまくできず結果として生活が不便になっている。
こういう現実的な問題に対応するために生まれたのが財産管理契約です。「判断能力が衰える前」に様々な事務処理やお金の管理を人に任せる契約であることが任意後見との最大の違いです。
そして財産管理契約の特徴がもう1つ。それは通常の委任契約である点です。任意後見は「任意後見に関する法律」というこの制度専用の法律があります。ところが財産管理契約にはそういう特別の法律はありません。
では財産管理契約の法律上の根拠はなにか?それは民法の委任契約です。民法の委任契約は私たちが生活する中でたくさんの場面で利用される契約で、財産管理契約に限って利用されるものではありません。
この点から、財産管理契約には独特の注意点があります。それは「財産管理を任せている人を監督する立場の人がいない」ということ。任意後見は財産管理をする人を監督する「監督人」が必ず定められます。しかし一般に広く利用される民法を利用している財産管理契約はこのような立場の人がいません。
誰に財産管理を任せるか?ここが最大の注意点と言えます。