通常、投資というと何らかの「資産」を買うことを指します。不動産と比較してみましょう。土地・建物を購入し家賃収入を得る場合、購入するのは基本的に「土地・建物」だけです。
しかし例えば飲食店をM&Aで取得した場合、その飲食店がある土地・建物やその賃借権だけを取得するわけではありません。店舗内の備品や設備、従業員との関係など単に資産を引き継ぐのではなくビジネスそのものを引き継ぐのがM&Aです。
上場会社の株を買うのも株式譲渡によりM&Aをするのも「株を買う」という意味では変わりません。
しかし、投資として上場企業の株を買うことを「M&A」とは呼びません。M&Aとは会社の「支配権」を取得することを指します。
会社の支配権を取得するには会社の100%若しくはそれに準ずるだけの株を取得します。そして株式投資は配当金や株を売却したときの売却益に注目していますが、M&Aはビジネスそのものを取得することに着目しています。このように取得する株の割合と利益として何に着目しているかが違います。
自社の良い点については、意外と自分たちには見えないものです。買い手側企業があなたの業界にこれから新規参入しようとする場合、自分たちで1からはじめるよりもM&Aにより既にその業界にいる会社を譲る受けた方がはるかに早く効率的に参入できます。
また自社では活かしきれなかった独自技術も、他社の技術組み合わせることにより製品としてはるかに良いものとして生まれ変わるかも知れません。M&Aの可能性はあると思います。
創業社長の親族への事業承継や従業員・役員への事業承継の場合は、少なくとも今まで会社と関りがあった人への事業承継です。
しかしM&Aは、今まで会社にかかわりがなかった言わば「知らない人」への事業承継です。そのため従業員はもちろん、取引先などの関係先にも大きい動揺が走りやすい側面があります。
M&Aをしようとしているというだけで、会社の先行きを不安視されるような見方もされてしまうかも知れません。内外への影響が大きすぎるのです。
この影響を抑えるためには、M&Aが決まった後に雇用環境も取引先に対するサービスも今までと変わらないという情報とともに開示するのが得策です。このため買い手候補者にもしっかり秘密を守ってもらわなければなりません。
そのため、会社を特定する情報を買い手候補者に開示する前に秘密保持契約を締結し、必要があって重要な従業員にM&Aに関する相談をするときも秘密保持契約を締結すべきでしょう。
買い手候補者と譲渡価格などおおまかな条件面で合意ができたら、買い手候補者は本格的なデューデリジェンス(調査)に入ります。基本合意書はこのデューデリジェンス前に締結される契約で互いに取引する意志や譲渡価格の目安などが書かます。
売り手としても会社の詳細情報をこれから開示しますし、買い手候補者も手間やコストをかけて調査しますから基本合意書で互いの意思を確認する必要があります。基本合意書においては、は買い手側に独占交渉権を与え、もう他の候補者と交渉することは打ち切ること。また譲渡価格や譲渡の意思には法的拘束力を与えないようにしておくことが多いです。
M&Aの時の株式譲渡契約書には売買契約を締結する旨や、譲渡価格以外にもいろいろなことが記載されます。
ケースにもよりますが例えば譲渡日をもって現役員には辞任させることとし、辞任届の取りまとめが契約内容に盛り込まれることもあります。
また買い手側には従業員を同じ条件で継続雇用を義務付ける条項を入れることも多いです。そしてもう1つ特徴的なのは表明保証。売り手が買い手に伝えていた情報に誤りが無いことを項目を列挙した上で、保証していきます。会社の状況の説明が正確であるか確認するための条項です。
株主名簿が基本資料になります。ただ中小企業では株主名簿を作っていなかったり、過去に作っても整備されていなかったりすることも多いです。そういうときには過去の定款や株主総会、取締役会議事録、確定申告書別表二の「同族会社等の判定に関する明細書」なども参考にしていきます。