終活といって誰もが最初に思いつく「遺言書」。遺言書にはいくつか種類があります。その中でも代表的な形態である公正証書遺言。作成件数のデータがあるのでみてみましょう。
令和4年は11万1977件。近年で一番多い令和元年は11万3137件でした。ここ数年はコロナの影響で微減傾向でしたが、それでも令和2年は9万7,700件、令和3年も10万件を超えています。令和4年にまた11万件に達したことを考えると、遺言書の作成件数はまだまだ増えていくと予想できます。
ほかの種類の遺言書として自筆証書遺言も上げられますが、こちらもおそらく増加傾向にあるのだと思います。
このように終活の中心をなす遺言書ですが、とにかく残せばいいというわけではありません。大事なのは「中身」です。本当に遺言書の内容があなたにあっているかどうか。それを検証することが遺言書を作成する上で最も重要であり、終活がうまくいくかどうかの鍵になってきます。
このページの目次
遺言書がマイナスになってしまうケース
せっかく作成した遺言書が、かえって相続人のもめごとにつながったり、感情的に禍根を残してしまったりすることがあります。遺言書を作らない方が良かったケースです。どのようなケースがあるのか一例をご紹介します。
「言いなり遺言」
将来、相続する権利があると想定される人を「推定相続人」と言いますが、このうちに1人に遺言の内容まで指定され言いなりで遺言書を作成してしまうケースがあります。私は勝手にこれを「言いなり遺言」と呼んでいます。
なぜその推定相続人に書かされる遺言はダメなのか?当然の前提として遺言書は遺言書本人の意思に基づいて作成するものです。しかしながら、例え推定相続人のうちの1人から急かされて作成した場合でも遺言書は遺言書です。そのような遺言書があることを知ったら他の推定相続人はどう思うでしょうか。
自分の兄弟が両親を言いくるめて相続財産を独占しようとしていると思う可能性は強いです。こうなると遺言書が無い状態のときよりも、むしろ感情的な軋轢をまねいてしまう可能性があります。遺言書が必ずプラスに働くとは限らない、典型的なケースです。
書かす方にもデメリット
「言いなり遺言」は書かせる方にもデメリットです。遺言は書き直せるのです。もしもあなたの兄弟が、あなたが自分に一言もなく遺言書を親に作成させたことを知ったら?同じように兄弟も両親に遺言書の作成を頼み、あなたが頼んだ遺言書とは全く違う内容になるかも知れません。
人は高齢になってくると、不安に弱くなりまわりの人との繋がりを強く求める傾向があります。そのため、自分の子ども達の意見や考えが別れたりすると、その意見が両立しないにも関わらず嫌われてしまうことを心配してそのまましたがってしまうことがあり得ます。
そして結局はそれぞれに対する話に矛盾が生まれ、それが軋轢の基になってしまうことが考えられるのです。
このようなことからも、本人が乗り気じゃない状態で作成された遺言は危険なのです。そしてもう1つ。あまり遺言書の作成を急かすと親は「財産のことしか考えていない」と受け止めてしまうかも知れません。
自分のことを大事にしてくれたり、心配してくれていないと感じ孤独感を深めてします・・・要するに拗ねてしまう可能性があります。こうなると終活全般が進まなくなります。やはり本人に主体性の無い遺言作成は避けるべきでしょう。
遺言を残すべきケース
遺言書がマイナスに働いてしまうこともありますが、あなたの想いや希望が「遺言書でなければ実現できない」こともあります。
また、遺言書があることで相続手続きがスムーズに進み、後の残された人たちに喜ばれることも大いにあります。終活において遺言書の作成がメリットになるケースはどういう場合か?一緒にみていきましょう。
① お1人さま
配偶者やお子さんがいらっしゃらない場合、両親や兄弟姉妹が相続人になります。現実には兄弟姉妹が相続人となることが多いでしょう。そして、兄弟姉妹が亡くなっていた場合は?次は兄弟姉妹の子、つまり甥・姪が相続人です。
そしてこれらの相続人が全くいない場合は国庫に帰属することになります。相続人が甥・姪の場合は交流があまり無い場合も多いですし、甥・姪の方もそんなに相続財産を期待してないかも知れません。そういう場合は、遺言書を作成して、相続財産の分配を修正するのも良いと思います。
例えば相続人が甥が1人だけで、遺言書がないとそのまま全て甥が相続するようなケース。半分は甥に相続させて、残り半分は行政や慈善団体等に寄付するなどの形が考えられます。遺言で財産の分配を民法の割合から修正するのです。すごくお世話になった人がいる場合、その人に遺贈してもいいでしょう。
そして、法律上の相続人が誰もいない場合。どの道、公共のために使われるなら自分の共感できる活動にお金を使ってもらえるようにしても良いのではないでしょうか。このような希望が叶えられるのも遺言書作成のメリットです。
② お2人さま
配偶者はいてもお子さんがいらっしゃらない場合、自分の兄弟にも4分の1の相続分があります。普通の人の感覚だと、全て配偶者が相続すると思うかも知れません。
しかしその通りにするなら遺言書を作成する必要があります。もちろん、相続が発生した後、配偶者と兄弟姉妹の話し合い(遺産分割)で、全て配偶者が相続することは可能です。しかしその通りにいくとは限りませんし、兄弟姉妹にも手続きに参加してもらうため手間もかけさせてしまいます。
このように兄弟姉妹に迷惑をかけないようにできるのも遺言書作成のメリット。できれば、終活段階で遺言書を作成できるとスムーズです。
③ 家族全員が話し合って決めた場合
遺言書作成の大きな目的は「紛争防止」。自分の子はどちらも大事な自分の家族です。その家族同士が争うのは悲しいこと。そんな悲しい状態を防ぐことを終活の中心目的にする方は多いのではないでしょうか。
遺言書の内容はもちろんご本人が決めることです。ですが、ご本人の意思でみなさんと話し合って決める分にはなんの問題もありません。遺言書がないとどうなるでしょうか。相続発生後、ご本人がいない状態で・・つまり話し合いの中心を担うべき家庭内の権威がいない状態で遺産分割をすることになります。
それよりもあなたがいる今のうちの方、話し合いがまとまる可能性も高いのではないでしょうか。遺言書の作成は、事実上の遺産分割協議をあなたが見届けることができるメリットもあります。
④ 財産の分配の理由がはっきり伝わる場合
遺言書の内容を家族全員が把握し、納得してくれるならそれに越したことはありません。しかし、現実にはそうはいかない家庭もたくさんあります。
誰かが遠方に住んでいるとそれだけで家族全員が同時に集まるのが難しい。もし遺言の内容を全員に伝えられない場合は、なぜその内容にしたのかしっかり書き残すことができると良いと思います。
理由さえきちんと、合理的な落ち着いた言葉で語られていれば額面の相続財産が少ない方でも納得できるかも知れません。また遺言書の内容の説明と合わせて、あなたのいつまでも家族仲良く暮らして欲しい想いも書き残しておきましょう。
遺言書に「付言」の形で書いても構いませんし、エンディングノートに書き残しても構いません。
遺言書はどの種類がいい?
民法には遺言書の種類として大きく3種類あげられています。
1つは自筆証書遺言。これは普通に自分で手書きで書く形です。最近では、紛失防止のため法務局で保管もしてもらえるようになりました。
そして、公正証書遺言。これは公証人が作成する形の遺言です。一番手堅いといえるでしょう。
もう1種類、秘密証書遺言もあります。こちらは、遺言の内容を開封までまわりの人に知らせず、かつ公証人も関与する形です。秘密証書遺言はあまり使われることはなく、多くの方が自筆証書遺言か公正証書遺言を選びます。
おすすめは公正証書遺言。自筆証書遺言の手軽さも魅力ですが、やはり手堅く作成する方をおすすめしたいと思います。